ラブ・ゼネレーション
この本を読んで、これからもっと早川義夫のうたを聴いて、救われる気持ちになるような予感がした。偽りやリキみのない、しなやかな表現……。
歌は、歌をつくろうとせまられることではなく、ふとしたことから生まれていく
頼まれもせず作品をつくりだしていくことが素晴らしいのであって、頼まれるようになってしまったらおしまいなんだ。
こんなことをさらっといえるひとがどれだけいるか。
早川義夫の音楽は『ジャックスの世界』と『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』をたまに聴いていた。でも名盤なんだから聴いとかなきゃいかんだろう、アアたしかにこれはいいね、くらいの熱度だったかも。
ときどきグッとアンプのボリュームを上げるような、太い絶叫が凄まじい。でも当時はもっとフリーキーで凶暴な演奏ばかりありがたがっていたから、ジャックスの録音演奏は少しばかり物足りなく、ソロのうたは削ぎ落とされた音の潔さに寒気をおぼえるようだったものの、“NHKに捧げる歌”とか“もてないおとこたちのうた”のような直球風のタイトルはしみったれていてちよっとな、とか思っていた。いま思えば、その卑近さこそ早川義夫の凄さなのかもしれないけど。
2021年に「第2回ジャックスショウ」がまさかのCD化。これは故・大里俊晴さんの”プライベートチャート”10枚にも入っているだけあって、もの凄いアルバム。
地鳴りのように轟くドラム、稲妻のように空間を叩き切るギター、病んだ人魚の恨み節みたいなボーカル——録音環境のせいか爆音がひび割れて混沌とした音響が渾然一体にのたうちまわる、音の嵐。
でも、早川義夫の凄さはそういう「禍々しさ」で語るものより、もっと他にあるようだ、というのが『ラブ・ゼネレーション』を読んでの感想。
この本ではジャックス解散からソロ・アルバム、レコード会社のディレクター時代から、音楽活動から離れて本屋をはじめるところまでのエッセーが収録されているが、音楽の表舞台から遠のくときの心境なんてサッパリと書かれている。それから再びソロアルバム『この世でいちばんキレイなもの』を発表するまで20年以上。
「歌は、歌をつくろうとせまられることではなく、ふとしたことから生まれていく」
この言葉を人生で体現するなんて、なみたいていのことじゃない。
だから、クラシック扱いされているジャックス時代の音源やファースト・ソロよりも、復帰後の作品を聴きこんでいくことが、早川義夫の真髄を味わうために大切なんじゃないかといまは思っている。